特許翻訳者の適性とは?文系でもなれるの?

フリーランス特許翻訳者のアツトです。

私は現在、特許翻訳の仕事をしていますが、この業界に入る前は新卒で採用されたシステムエンジニアとして働いていました。

正直、あまり向いてなかったです(笑)

エンジニアと聞くと、理系職バリバリのイメージがあり、私もそのようなイメージを持って入社しました。

しかし、実際は理系として能力よりも、社内での調整や根回しといった業務が多く、入社2年程度で転職を考え、特許翻訳に興味を持つようになりました。

だからこそ、「特許翻訳ってどんな人が向いているんだろう?転職した後に、自分に向いていないと分かってしまったら嫌だなぁ」と転職活動中はずっと考えていました。

その後、特許翻訳会社に入社して、この仕事は自分に向いていると分かり一安心したのですが、自分と一緒に入社した同期や後輩の中には入社後すぐに辞めた人も多く、特許翻訳という仕事においても、間違いなく適性や向き不向きは存在すると思います。

そこで、実際に私がこれまでお会いしたことがある中で、デキる特許翻訳者の共通点についてまとめてみました!

以下で触れているのは、「英語が得意」、「技術の知識がある」などの能力的なことではなく、性格的、先天的な能力に関することです。

また、特許翻訳というと、文系には厳しいと思われがちですが、その点についても最後に触れたいと思います。



1. 特許翻訳者の適性

1.1 黙々とした作業が好きであること

これは特許翻訳者に限らず、翻訳者全般に対して言えることかもしれません。

翻訳者という仕事はそのイメージ通り(?)、大半の時間、黙々と翻訳しているので、他人とのコミュニケーションを中心とした仕事をしたいと考えている方には向いていないと思います。

あまりにも当たり前すぎることを書いているようですが、実際に私の後輩がこのような理由で退職したので、一応書いておきました(笑)

もちろん、コミュニケーションが全く不要であるというわけではなく、社内特許翻訳者であったら、訳語の適切性について上司やチェッカーから質問を受けたり、翻訳の方針を上司に確認したりとコミュニケーションの場面は多少あります。

1.2 勉強好きであること

特許翻訳の仕事では、非常に多岐にわたる技術分野の特許明細書を翻訳することが求められます。

そして、その度にその技術分野の基本的な内容や、その分野で使用される英語について勉強、調査することが求められます。

そのような調査を怠る人の翻訳文というのは、やはり手抜き感というのがあって、すぐに分かる(=評価が落ちる)ことが多いです。

例えば、「アイドリングストップ」という用語。

手抜きをする翻訳者は「idling stop」と誤訳(和製英語なので)してしまいますが、調査を怠らない人は「idle reduction」と適切に訳すことができます。

話は変わりますが、特許翻訳者には驚くほど高学歴な人が多く、私が以前、在籍していた特許翻訳会社の社員のほとんどは、旧帝国大学又は早慶上智東京外語あたりの出身者でした。

これは高学歴な人でないと特許翻訳ができないということではありません。

そうではなく、高学歴な人は勉強好きな性格であり、そのような性格が特許翻訳者に向いているのだと私は思います。

特許翻訳の勉強に使える本・ウェブサイトまとめ(日英編)

2017.08.19

1.3 細かく几帳面であること

これはどちらかと言うと、男性に多いのですが、英語も好き、技術も好き、しかし大雑把な性格で翻訳文に訳漏れなどのミスが多いという人がいます。

特許翻訳者として、一番評価を下げる要因となるのは何か?

それは英語が汚いということでも、技術をよく理解していないということでもありません。

一番、評価を下げるのは訳漏れやスペルミスなどのケアレスミスです。

最悪、訳漏れさえしなければ、いざお客さんから苦情を受けた時も言い訳ができるのですが、訳漏れやスペルミスは言い訳のしようがありません(笑)

1.4 言語感覚に鋭いこと

言語感覚に鋭いというのは曖昧な表現ですので、さっそく具体例を挙げましょう。以下の文を見てください。

例:制御部は、Aと、Bと、Cから求めたDに基づいて、Eを計算する。

この文は2通りの解釈が可能です。

解釈1:AとBとCからDを計算する。そして、Dに基づいてEを計算する。

解釈2:CからDを計算する。そして、AとBとDに基づいてEを計算する。

実際の翻訳では、このような多義的解釈の可能性、すなわち言葉の罠を事前に見抜き、明細書の文脈や技術知識に基づいてどちらの解釈が正しいのか判断しなければなりません。

技術の知識があればあるほど、そのような言葉の罠にはまった誤訳をするリスクが減ります。

しかし、文系出身のように技術の知識が薄い場合には、たとえ技術の内容がよく分からなくても言葉の罠を事前に見抜き、前後の文脈などから正しい判断を下す必要があります。

このようなことを言うと、年季の入ったベテラン特許翻訳者から、

言葉の罠とか、そんなのは枝葉末節の話だ!発明の本質を理解しているかが重要なのだ!

という批判を受けるかもしれません(笑)

発明の本質を理解するのはもちろん重要だと思います。

しかし、です。

では、なぜ発明の本質を理解することが翻訳にとってそれほど重要なのでしょうか?

それは、「発明の本質を理解していないと、言葉の罠にはまってしまい、誤訳をしてしまうから」です。

「発明の本質を理解する」(*)ということは、「言葉の罠による誤訳を避けることができる」という翻訳上の具体的なメリットをもたらすからこそ、重要なものなのです(言い方を変えると、翻訳上の具体的なメリットがないのに重要という話では、意味不明です)。

極論を言うと、内容が分かっていなくても、言葉の罠にはまらず、かつ用語さえキッチリ調べれば、及第点レベルの翻訳ができてしまうという側面が、間違いなく特許翻訳にはあります(本当に極論です笑)。

ですから、元から言葉の罠を見抜くセンスの高い方、つまり言語感覚に鋭い方は特許翻訳者に非常に向いていると思います。

なお、この1.4の特徴は、ネイティブ翻訳者がとても苦戦する部分です。この記事をご覧になって下さっている方の中には、「英訳に興味があるけれど、自分はネイティブじゃない。それでも大丈夫?」と不安な方もいらっしゃると思いますが、そのような方は是非、以下の記事を読んで希望の光を見出して欲しいです(笑)

ネイティブ翻訳者だって英語を間違える!5つの実例を紹介

2017.09.26
(*)ちなみに、「発明の本質を理解する」と同じく、「権利範囲を意識する」ということがよく言われますが、この点は、お金を実際に支払う(←この視点が重要)お客さんからの評価上、翻訳者の間であまり差がつきません。具体的に説明すると長くなるのですが、弁理士の方が書かれた有名記事「今後特許翻訳者が生き残っていくための条件」に、権利範囲の理解やリーガル的な話題が一切登場していないのが象徴的です。「変な日本語に対する処理の熟達」(=言葉の罠)とあるように、もっと泥臭いレベルのスキルの方が、重要かつ「お金を実際に支払うお客さんからの評価対象になる」と思います。法律面はどうでも良いという話ではなく、基本的なクレームの書き方さえ習得していれば、それ以上法律面を突き詰めても、労力に対する対価(ワード単価など)の上昇はあまり期待できないということです(趣味としての学習は否定しません)。

2. 文系でも特許翻訳者になれるのか?

2.1 翻訳会社に勤務していた同僚達の例

私が以前在籍していた特許翻訳会社では、社内翻訳者と外注翻訳者とを含めて50人程度の人数がいました。

そのうちの半数は文系出身の方です。

たとえ文系出身であったとしても、1.1~1.4の性質を全て持っていた方は、会社や顧客の特許事務所から高く評価されていました。

文系出身の方ですと、「技術の知識がなくても大丈夫なのか?」と思われるかもしれません。

しかし、理系出身者だって、自分にとって全くなじみの無い技術分野に関する翻訳を依頼されることの方が多いのです。

文系理系関係なく、特許翻訳者であれば皆、難しい技術に頭を悩ませながら翻訳をしています

明細書の隅から隅まで内容を理解できることの方が少なく、多かれ少なかれ、特許翻訳者は皆、騙し騙し乗り切っている側面があると言えるでしょう(逆に、多岐にわたる最新技術が1日や2日で全て理解できるなら、特許翻訳者ではなくノーベル物理学賞でも目指すべきです)。

そのような時に重要なのは、1.2の項目で、「途中で技術理解を投げ出さず、可能な限り勉強する、調査する。」ということです(それでも100%はありません。スポーツニュースの翻訳のように、内容が100%理解できないと気持ちが悪いという完璧主義者は、絶対的に特許翻訳者には向いていないと思います)。

「仕事に対して真摯に取り組む人間性」と言ってはいかにも青臭い表現になってしまいますが、「知らない技術に対して、どこまで粘り強く取り組めるか?」という姿勢は、翻訳会社や特許事務所からの信頼を獲得するうえで、とてもとても重要な要素だと思います。

2.2 とは言え、中学/高校レベルの物理・化学の知識は持っておいた方が良い

「文系理系関係なく~」とか書いてて、恐縮ですが、しかしやはり中学/高校レベルの物理・化学の知識は持っておいた方が良いと実感することも多々あります。

電気・機械関係の明細書を翻訳していると、例えば、「トルク」、「位相」、「コンデンサー」、「コイル」、「ダイオード」、「整流回路」、「振動数」などの基本的な技術用語(これらの用語を出したことに特に意味はありません)が頻繁に登場しますが、高校物理を勉強していれば、これらの用語の表面的な意味だけではなく、仕組みまでキチンと学べるため、ただ訳語を暗記して翻訳をするよりも、技術を正確に理解できる(=誤訳リスクが減る)場面は多いです。

東進ブックスの「はじめからていねいにシリーズ」など、分かりやすい高校物理・化学の書籍は多数出版されているため、最低限の技術知識として、これらの書籍を読んでおくのは有効だと思います。

また、最近知ったリクルートのスタディサプリ高校講座・大学受験講座は、毎月定額980円(税抜き)で、5教科18科目の1万本を超える講義動画がPC、スマホで見放題というサービスで、本を読むだけでは物理・化学の内容が理解しにくいという方には大変おすすめです(物理・化学だけでも数百本以上の動画あり、14日間、無料体験できます)。

スタディサプリ中学高校講座

友人から「趣味として、スタディサプリで世界史の動画を見てる」という話を聞いて、私も無料体験期間を使って、世界史や物理、化学の動画を見てみたのですが、講師として人気予備校講師を採用しているだけあって、説明はとても分かりやすいものでした(世界史、久しぶりに勉強して、やっぱり楽しい!)。

動画を視聴するだけではなく、講師作成のオリジナルテキストや問題もダウンロードすることができるので、手を動かしながら学ぶとよいでしょう。

例えば、上で挙げたコンデンサーに関してですと、高校2年生 理科/物理 コンデンサーという講義動画が提供されていて、コンデンサーの仕組みをキチンと学ぶことができます。


以上、特許翻訳者にとっての適性、向いている人について述べてきました。

「黙々とした作業が好き」とか、「勉強好き」とか、「几帳面」とか、インドア感が半端ない要素を並べてしまいましたが(笑)、これが数十人以上の特許翻訳者を見てきた僕の実感です。

特許翻訳業界に入ってから、「やはり向いてなかった」とならないように、少しでも参考にして下されば幸いです!

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