英語ブロガーのアツトです。
私は現在、翻訳の仕事をしておりますが、大学は理系の出身(工学部)で、数学や物理の勉強に当たっては、よく洋書を読んでいました(洋書は、専門課程の勉強にも、英語の勉強にも役立ち、一石二鳥!)
でも、数学や物理の洋書って基本的にめちゃくちゃ高いんですよね。
Dover出版(*)の書籍は、1000円程度で買える物も多いのですが、基本的には最低でも3000円以上する本ばかりです。
だからこそ、本選びには失敗しなくない!
特に、英語で出版される数学書は、日本語で出版される数学書よりも圧倒的に多いため、名著も多いですが、その分ハズレも多いです。
そこで、本記事では私が実際に大学時代に購入して読んだ数学洋書の中から、おすすめ本を挙げました!
少なくとも、ここに列挙した数学書は、値段以上の価値があったと断言できます。
ただ、気を付けて頂きたいのは、以下で紹介する本は数学的な証明や理論解説がメインの書籍であって、計算がメインの書籍ではありません。
例えば、微分積分に関して言うと、「微分積分をバリバリ計算したい!」という方ではなく、「実数の構成から始めて、微分積分の理論が厳密に構築されていく過程を学びたい」という方におすすめです。
そもそも、計算がメインの本なら洋書を読む意味があまりないですからね(^^;)
理論解説や数学的証明の流れのように言葉が必要なものこそ、洋書を読む意味があるのだと思います。
Contents
- 1. Walter Rudin “Principles of Mathematical Analysis”
- 2. Michael Artin “Algebra”
- 3. James R. Munkres “Topology”
- 4. Walter Rudin “Real and Complex Analysis”
- 5. Emil Artin “Galois Theory”
- 6. Zdzislaw Brzezniak “Basic Stochastic Processes”
- 7. Steven Shreve “Stochastic Calculus for Finance II: Continuous-Time Models”
1. Walter Rudin “Principles of Mathematical Analysis”
The Principles of Mathematical Analysis (International Series in Pure & Applied Mathematics)
計算ではなく、理論的な微分積分の教科書としては、アメリカの数学科でも定番中の定番。
実際に、ハーバードや、スタンフォード、MITの「解析(calculus)」の講義でも、Rudinは教科書や参考書として指定されています。
実数体の構成としては、デデキントの切断アプローチを採用しており、順序集合の導入から始まって、実数体、複素数体と厳密に構築されていきます。
通常、微分積分の教科書は、重積分の変数変換定理の証明で終わることが多いですが、Rudinの場合は、さらに進んで、微分形式とルベーグ積分の導入まで扱われているのです。
私は、Chapter 9の「Functions of Several Variables」まで読んだため、微分形式やルベーグ積分の章は読まなかったのですが、ここまででも十分値段の価値がありました。
数学書の厳密な議論に慣れていない方にはとって、最初は苦行になってしまいますが、当時大学1年の自分は、1時間に2ページのスピードでゆっくりゆっくりと難解な議論と格闘していたことは、今となって、大きな大きな財産になっています。
時間のある大学生の方や、思考力を高めたい全ての方にお薦めしたい微分積分学の名著です。
本当にお世話になりました。
2. Michael Artin “Algebra”
Algebra (Classic Version) (2nd Edition) (Pearson Modern Classics for Advanced Mathematics Series)
Rudinが解析学のド定番教科書なら、ArtinのAlgebraは、代数学のド定番教科書です(MITのAlgebra Iでも指定教科書になっています)
線形代数ではなく、いわゆる「群・環・体」のオーソドックスな入門書になっています。
正直、良くも悪くも教科書という感じで、Rudinや後述のMunkresのように、興奮のあまりのめり込んでしまうような面白さには欠けるのですが、代数学の教科書を洋書で読みたいのであれば、この本がベスト・・・というか無難でしょう(笑)
私は、通読するというより、代数学の理解が浅い内容についてピンポイントで参照するという使い方をしていました。
3. James R. Munkres “Topology”
Topology (Classic Version) (2nd Edition) (Pearson Modern Classics for Advanced Mathematics Series)
大学時代に読んだ数学書の中で、最も好きな本。
「集合・位相」と言えば、大学の数学専攻の方や、経済学部の大学院生にとっての必修科目ですが、議論が抽象的でイメージが掴めず挫折する方が多いと言われています。
和書では、松坂和夫の「集合・位相入門」が有名で、私も名著だと思うのですが、MunkresのTopologyの方が、実際の関数への応用例がふんだんに紹介されているため、
「へー、抽象的な集合・位相の理論が、こんな形で実際の解析の問題に活かせるのか!」
というワクワク感や感動を感じることができるのです。
また、松坂和夫の「集合・位相入門」に比べて、Munkresの書籍はイメージ図が豊富に掲載されているため、
「集合・位相の記号論的な証明は分かったけど、実質的にどういう意義があるのか分からない」
というアルアルな悩みを持つこともありません。
集合・位相の本と言えば、日本国内では松坂和夫のシェアが圧倒的ですが、もっとMunkresの知名度が上がってほしいと切に願います(そして、この書籍もMITやスタンフォード大学数学科の「Topology」において、教科書指定されています)。
最後に、以下で引用するのはamazonからのレビューですが、あまりにも私の考えを代弁して頂いているので、参考までに掲載しておきます。300%同意のレビューです。
~amazonカスタマーレビューより引用~
日米を問わず、topologyの本は数多く出版されているが、この抽象的な数学の一分野をここまでわかりやすく記述した本は数少ない。この本の特徴は第一に証明が理解しやすく、読んでいて楽しい。一般に数学者は簡潔でエレガントな証明を好むので、他の本から、この本の証明から得られる「楽しさ」を求めるのは難しい。もちろん、この本はMITの数学科の大学院生向けに書かれているので、厳密さも欠いていない。二点目は、証明の後に定理の直感的な説明も加えられている点である。抽象的なtopologyの理解に不可欠な点であり、他のテキストとの比較で際だった特徴である。三点目は練習問題の豊富さである。これによって、本文中の理解が更に深まると思われる。real analysis, functional analysisとは異なり、数学の予備知識なしで読める本である。私に「数学の楽しさ」を教えてくれた本である。これが皆さんの「生涯の一冊」になることを祈念します。
Munkresは、私にとってもまさに「生涯の一冊」です!
4. Walter Rudin “Real and Complex Analysis”
Real and Complex Analysis(表紙は赤と緑2種類があります)
「Principles of Mathematical Analysis」の著者Rudin氏によるルベーグ積分と複素解析の入門書。
正直、複素解析に関する内容は中途半端感が否めないのですが、洋書でルベーグ積分と関数解析の基礎を学ぶのでしたら、これがベストだと思います。
ただ、ルベーグ測度の構成に当たっては、通常、カラテオドリの拡張定理を用いることが多く、こちらの方が直感的で分かりやすいと思うのですが、本書ではリースの表現定理を用いて、ルベーグ積分の核であるルベーグ測度を構成しています。
この本を読まれる方も、伊藤清三「ルベーグ積分入門」(*)を参照するなどして、カラテオドリの拡張定理からのアプローチを知っておいた方が良いでしょう。
(*)なんと、2017年4月に伊藤清三先生の「ルベーグ積分入門」新装版が出版されたことを最近知りました!大名著です、この書籍は。ルベーグ積分を学ぶ人は是非買うべき\(^o^)/
5. Emil Artin “Galois Theory”
理系の大学生は、全員ガロア理論を学ぶべき!
そんなガロア理論ミーハーの私です。
Emil Artinの「Galois Theory」は、全80ページの小冊子ですが、体とベクトル空間の定義から始まり、体の一般理論、ガロアの基本定理を経て、「五次以上の代数方程式には解の公式が存在しない」というアーベルの定理まで、一直線に駆け抜けます(そして最後には、有名なギリシアの作図問題が扱われます)。
「わずか80ページで、体とベクトル空間の定義からアーベルの定理まで駆け抜けるなんて・・・もしかして、説明が不親切なんじゃない?」
と思われたあなた鋭い!(笑)
説明が不親切というよりは、極限まで不必要な説明を削った構成になっているので、ある程度、数式と数式の間の理論的なギャップを自分で埋めることが求められます。
Rudinの本についても言えることですが、このように数学書と格闘して脳にタップリ汗をかくことが、長期的に見て自分のためになります。
なお、本書は、ちくま学芸文庫より、アルティン「ガロア理論入門」として訳書も出版されており、原書にはない練習問題と解答がついているため、こちらもおすすめです。
私は、もちろん2冊とも持ってます(・∀・)
6. Zdzislaw Brzezniak “Basic Stochastic Processes”
Basic Stochastic Processes: A Course Through Exercises (Springer Undergraduate Mathematics Series)
測度論ベースの確率論の基本を学ばれた方に「次の1冊」としてお薦めしたい、確率過程・確率微分方程式の入門書。
経済学やファイナンスの世界において、「伊藤の公式」という、伊藤清氏による確率微分方程式の基本定理は超有名ですが、この難解な確率微分方程式の世界(のほんの一端)を理解する上で、最も親切な入門書だと思います。
実際に、伊藤の公式を駆使して、確率微分方程式をガリガリ計算できるようになると、達成感あります\(^o^)/(笑)
amazonで他の方がレビューされていますが、本書では、内容理解を助ける手ごろなレベルの問題が多いので、分かった気にならず、地に足のついた実力を養成することができるのです。
7. Steven Shreve “Stochastic Calculus for Finance II: Continuous-Time Models”
本書は、S.E. シュリーヴ「ファイナンスのための確率解析 II (連続時間モデル)」という名称で邦訳されているため、金融工学専攻の方の中には、ご存知の方もいらっしゃるのではないでしょうか?
<訳書:ファイナンスのための確率解析 II>
本書を通じて、「抽象的な確率過程や確率微分方程式の理論が、実際の社会(特に金融工学)にどう役立っているか?」を知ることができます。
一つ上で、Basic Stochastic Processesを紹介しましたが、このような数学的理論ばかり勉強していると、どうしても抽象論だけで終わってしまい、現実社会や科学との接点を見失いがちになってしまいます。
数学的に厳密な理論というよりは、直感的にルベーグ積分や確率微分方程式を駆使してゴリゴリ計算することを趣旨とする本ですが、ガチガチの数学理論に疲れた頭を癒やすことも、たまには必要でしょう(笑)
以上、名著と言われる数学の洋書を何冊か紹介しました!
何を買えば良いか迷っている方には、とりあえずRudinのPrinciples of Mathematical Analysisをおすすめします。
やはり、微分積分学は全ての高等数学の基礎となっている面がありますし、何よりも、大学数学特有の数学的思考を鍛えるためには最適の本だからです(しかし、Munkresも捨てがたい・・・)。
ここまでお読み下さり、ありがとうございました!
また、以下の記事では、数学以外にも複数のノンフィクション書籍について紹介しておりますので、合わせて参考にして頂けると幸いです。
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